『ねずみのすもう』は、「でんかしょう、でんかしょう」というネズミが相撲を取る際のかけ声がとても印象的なお話です。
今回は、『ねずみのすもう』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『ねずみのすもう』は、明治~昭和時代前期に活躍した民俗学者の佐々木喜善が、自身の地元である遠野地方(岩手県南部)を中心に青森・岩手・秋田・宮城各県より採集した東北地方の民話の集大成を昭和6年(1931年)に三元社より発行された『聴聞草紙』に「鼠の相撲」という題名で収録されたことにより日本中に広く知られるようになりました。
その後も昭和43年(1968年)に未來社より発行された『日本の民話 みちのくの民話 別巻一』で「ねずみのおすもう」という題名で紹介されたり、作: 神沢利子・絵: 赤羽末吉による絵本が昭和58年(1983年)に偕成社より発行されたり、現在まで親しまれている民話です。
絵本『ねずみのすもう (子どもがはじめてであう民話 5)』はポプラ社から出版されています。大川悦生さんの文は、「でんかしょ でんかしょ」などの擬音語や擬態語が使われていることで、声に出して読むとリズミカルな文章を楽しむことができます。梅田俊作さんの絵は、素朴なのに情緒あふれ、表情が豊かなので、とても魅力的です。あらすじ
むかしむかし、お爺さんが山で柴刈りをしていると、どこからともなく
「でんかしょ、でんかしょ」
とかけ声が聞こえてきました。
声の方へ行ってみると、二匹のネズミが相撲を取っていました。太ったネズミは長者のネズミで、痩せたネズミはお爺さんの家のネズミでした。
お爺さんは痩せているネズミが負けっぱなしのことを哀れんで、体が大きくなるようにと餅をたくさん作ってネズミに食べさせてあげました。
すると翌日、痩せたネズミは太ったネズミに負けない相撲を取れるようになりました。
太ったネズミがどうして急に強くなったのかと訊ねると、痩せたネズミはお爺さんの作った餅を食べたからだと答えました。
それを聞いた太ったネズミは、今晩、蔵の中からお金をたくさん持っていくから、その餅を食べさせて欲しいと頼みました。
その夜、お爺さんは二匹のネズミのために餅と赤いふんどしを作ってあげました。次の日、二匹のネズミは赤いふんどしを締めて
「でんかしょ、でんかしょ」
と言って相撲を取り、お爺さんはそれを見て喜びました。
解説
害獣として想い浮かべる鼠ですが、鼠は多産であることから子宝、子孫繁栄の象徴とされてきました。また、広く大黒様として慕われている大国主命の神使は鼠とされています。
そのことから、鼠は豊穣や財福の象徴とされ、「寝ず身」という当て字がつけられ、働き者で財を蓄えるという良い印象があります。
このような鼠に対する考えから、民話の『ねずみのすもう』は生まれたのでしょう。
感想
急に強くなった理由を、惜しげもなく明かすことができる痩せたネズミの太っ腹でケチケチしない姿に、憧れを抱いた方も多いのではないでしょうか。
この様な精神的に豪快な姿を「気前が良い」などと表現しますが、気前が良いとそれだけで他者からの印象が良くなります。それは、見返りを求めてしまうと、その時点で恩着せがましくなってしまうからです。
人間には自己顕示欲があり、やってあげた行為に対して見返りを求める気持ちがあります。そして、期待しただけの感謝や見返りがないと愚痴をこぼします。また、自分から良い行為をしたと宣伝して称賛されようとすることも、見返りを求める行為と同じです。そういう気持ちは、他者から見透かされ、人間性を疑われ、不信を抱かれるものです。
仏教では、他者に知られないようにひそかにする善行のことを「陰徳」と言います。そして、人知れず善行を積むことを「陰徳を積む」と言います。この「陰徳を積む」ことが巡り巡って、いつか「陽報」となって返ってくると言われています。つまり、人知れず善行を積めば、必ずよい報いを得るということです。
少しでも利益を得たいという気持ちがある貧乏性の人は、見返りを求めた行動が習慣化していることがあります。これは、本人に悪気はないのかもしれませんが、人間関係に悪影響をもたらす可能性があるため、注意したほうがよいでしょう。
まんが日本の昔ばなし
『ねずみのすもう』
放送日: 昭和51年(1976年)03月20日
放送回: 第0042話(第0024回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 勝井千賀雄
文芸: 沖島勲
美術: 西村邦子(アートノア)
作画: 高橋信也
典型: 致富譚・鼠譚
地域: 東北地方(秋田県)
『ねずみのすもう』は「DVD-BOX第11集 第52巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『ねずみのすもう』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
現在では、どちらかといえば、嫌われるネズミですが、日本では大黒様の使者といわれ、古来より吉兆とされた生き物です。『ねずみのすもう』は、面白くて心温まるお話なので、ぜひ触れてみてください!