福の神とは、幸福をもたらしてくれるご神仏全般を指します。一方、貧乏神は、その福をことごとく奪ってしまう神様です。そんな福の神を、ある貧乏な夫婦が貧乏神と力を合わせて、追い出すお話が『貧乏神と福の神』です。
今回は、『貧乏神と福の神』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『貧乏神と福の神』は、東北地方に広く伝わるお話ですが、同様に日本各地でも語り継がれてきた口承説話のため、明確な原典とされる文献資料はありません。
貧乏神はその名のとおり、日本で古来より言い伝えられた神様です。
特定の人や家にとり憑き、貧乏をもたらすといわれています。
絵本『びんぼうがみとふくのかみ (子どもがはじめてであう民話 9)』はポプラ社から出版されています。大川悦生さんによる前向きな生き方を教える文と、長谷川知子さんの分かりやすい絵がマッチしたおススメの絵本です。 絵本『びんぼうがみとふくのかみ (日本名作おはなし絵本)』は小学館から出版されています。富安陽子さんの落語のような軽快でテンポのよい文と、飯野和好さんの大胆でありながら表情豊かな絵が、見事に融合した読んでいて豊かな心になる楽しい絵本です。あらすじ
むかしむかし、あるところにとても貧乏な男がいました。
それは、男の家に貧乏神が住んでいたからです。
男のとても貧しい暮らしを見かねた村の人たちが、男に嫁を世話してあげました。
嫁はとても働き者で朝から晩までよく働きました。それにつられて男も働くようになったので、貧乏神はだんだんと居心地が悪くなってきました。
ある年の大晦日、夫婦が年越しの支度を済ませてお正月を迎えようとしていると、天井裏から泣き声が聞こえてきました。
天井裏を見ると貧乏神が、
「福の神が明日やって来るので、それまでに家を出なくてはならない」
と言って泣いていました。
優しい夫婦は、
「ずっとこの家にいてもいいよ」
と貧乏神に言うと、今度は嬉しくて貧乏神はまた泣きました。
除夜の鐘がなると福の神がやってきて、力ずくで貧乏神を追い出そうとしました。
貧乏神と福の神の押し合いを見ていた夫婦は、貧乏神を助けて福の神を家の外へと追い出しました。
驚いたのは福の神でした。
歓迎されるとばかり思っていたので、呆然としてしまいました。
そして、首をひねりながら福の神はもと来た道を引き返していきました。
その後も貧乏神が住み続けたこの家は、お金持ちになることはありませんでしたが、それでも夫婦は幸せに暮らしました。
解説
貧乏神にとり憑かれると食物が欠乏したり金銭に貪欲になったり、思いもよらぬ妨げなどの厄災が生じたりするといわれています。
貧乏神は人間の姿で巷をさまようものと信じられ、痩せた体で金壺眼でとがった顎をし、ねずみ色の単衣に白い菅笠をかぶり、首から頭陀袋をつりさげ、手に渋団扇を持った姿で描かれるのが典型的です。
貧乏神は味噌が好物で、団扇を手にしているのはこの味噌の芳香を扇いで楽しむためとされています。
貧乏神という表現自体は、古くは室町時代にまでさかのぼります。
「応仁の乱」で荒廃した京の都の記録に貧乏神という表現が初めて使われ、そしてこの記録から貧乏神が男神として認識されるようになりました。
それから、注意しなければならない点があります。
貧乏神にとり憑かれたとしても、この神を丁重に祀ると逆に富や福をもたらす福神に転化することがあるということです。
東京都文京区小石川に鎮座する牛天神北野神社の境内末社の太田神社には、そんな福の神を招き入れる貧乏神が祀られています。
感想
損得勘定ばかり考えていると、物事の本質を捉えることができなくなってしまいます。
そして、どんなに定量的な評価が普及しても、「幸せかどうか」という基準は不滅です。
社会的に成功すれば、お金持ちになれるので、きっと幸せになれると考え、日々、努力をしているという方は多いでしょう。
しかし、必死に努力をして成功し、お金持ちになったからといって、人は必ずしも幸せになれるとは限りません。
それは、成功した後もさらなる成功を追い求めるといった堂々巡りに陥ることがあるからです。
また、“成功=幸せ”という発想をもつ限り、成功するまでは幸せではない日々を過ごさなくてはならないということもあります。
それならば、「幸せかどうか」を考える方が分かりやすいのではないでしょうか。
つまり、「成功すれば幸せになれる」と考えるより、「幸せであることが成功につながる」という考えです。
成功するうえでは、まずは今を幸せと感じていることが大事ということです。
しかし、それにはどんな時に幸福感を抱くかを考える必要があります。
未来に対して明るい希望が持てれば、今よりは良くなると感じることができるので、きっと幸福感を抱くことができるはずです。
お金持ちになったとしても、それが幸福感に直結しない理由も、ここにあると思います。
でも、未来はどうなるのか誰にも分かりません。
だから、何事にも楽観的に考えることが意外と大事なのかもしれません。
また、日々を幸せに過ごすうえでは、日常の小さな喜びを大切にすることも大事です。
毎日を幸せに生きるうえでは、損得勘定ばかり考えるより、周りの人の幸せを考え行動し、他者の幸せを自分のことのように素直に喜べるようになれば、幸福感はきっと大きなものになるでしょう。
まんが日本昔ばなし
『貧乏神と福の神』
放送日: 昭和51年(1976年) 01月10日
放送回: 第0027話(第0014回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 近藤英輔
脚本: 沖島勲
美術: 宮野隆(スタジオユニ)
作画: 小島秀人
典型: 民間信仰
地域: 東北地方
『貧乏神と福の神』は「DVD-BOX第6集 第27巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『貧乏神と福の神』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
貧乏を笑い飛ばし、自らを励まし、大真面目にたくましく、貧乏神と生きていくことを実感として持った夫婦を、おもしろおかしく描いたお話が『貧乏神と福の神』です。ぜひ触れてみてください!