『塩ふきうす』は、「海の水がなぜ塩辛いのか」という素朴な疑問を解消しながら、巧みに因果応報の物語と結びつけた民話です。
今回は、『塩ふきうす』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
大正10年(1921年)の7月に實業之日本社より発行された『子供の聞きたがる新知識の庫』に、「海の水は何故塩辛いのでせう?」という項目があり、この「塩ふきうす」と同じ内容のお話が掲載されています。
作者は大正~昭和時代の小説家で文壇の寵児と呼ばれた三上於菟吉です。
この本の前書きには、三上が西洋の本である『西洋の学者が西洋の子供のために、知ってゐなくてはならないことをくはしく書いた結構な問題書』を翻訳したと記されているので、もしかしたら「塩ふきうす」の原点は西洋の民話にあるのかもしれません。
あらすじ
むかしむかし、あるところに百姓の兄弟がおりました。兄は欲張りで大きな家に住み、弟は正直者ですがとても貧乏でした。
ある年の暮れ、弟は米と味噌を借りに兄の家に行きましたが、欲張りな兄は貸してくれませんでした。
仕方なくとぼとぼ歩いていると、老人が声をかけてきました。
その老人は、弟にこの先の洞穴に行って石でできた動くものを持ってくるようにと言いました。
弟は言われるままにそこへ向かい、祠のそばの暗い洞穴に入ると、石臼があったのでそれを持って老人のところへ帰りました。
すると老人は、
「それは何でも欲しいものが出てくる石臼です。右に回すと欲しいものが出て、左に回すと止まる」
と言って姿を消しました。
弟はからかわれているのだろうと思いつつ、石臼を家に持ち帰り、さっそく
「米、出ろ」
と言って石臼を右に回すと、老人が言った通り米が次から次へと出てきました。
こうして弟は裕福な長者になり、他の貧しい人たちにも石臼から出たものを分け与えました。
弟が急に長者になったことに不思議に思った兄は、石臼のことを知りそれを盗み出し、船に乗って海の向こうの国で大金持ちになろうと企みました。
弟の家から持ってきた饅頭を食べた後、塩が欲しくなり、さっそく石臼を回して塩を出したのですが、止め方を知らなかったので、塩が次から次へと出てきて、ついに船は塩の重さで沈んでしまいました。
今でも石臼は海の底で塩を出し続けているそうです。
解説
『古事記』に登場する「海幸彦と山幸彦」のお話との関連性が指摘される『塩ふきうす』ですが、民俗学者の柳田國男は、ペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーよる『ノルウェー民話集』に収集された「海の底の臼」が原点であり、それが外国語訳の本を経て流入され、日本中に広まったとしています。
また、内容に多少の異同はありますが類話は日本全国に分布し、アジアをはじめヨーロッパの諸国など海外でもみられます。中国民話『水の母』とドイツのグリム童話『おいしいおかゆ』が『塩ふきうす』の類話としては特に有名です。
ペテル・クリスティン・アスビョルンセンの『太陽の東 月の西』は岩波書店から出版されています。「海の水はなぜからい」をはじめ、山と森と湖の国ノルウェーに伝わる楽しい民話が18篇収録されています。感想
誰でも子どものころ、一度は不思議に思う「海の水がなぜ塩辛いのか」という素朴な疑問を、巧みに因果応報の物語と結びつけたお話が『塩ふきうす』です。
ちなみに、海の水のしょっぱさの正体は、塩素とナトリウムが結びついた塩化ナトリウム、つまり「塩」です。
塩化ナトリウムは食塩の主成分で、海水からつくった塩は古くから食用にされてきました。海水の塩分濃度は3.5パーセントなので、海でうっかり海水を飲めば、十中八九咳き込んでしまうほど塩辛いことがわかります。
では、なぜ海水に大量の塩化ナトリウムが含まれているのでしょうか。これには二つの説が有力とされています。
ひとつは46億年前の地球に海ができた直後からしょっぱかったという説で、もうひとつが27億年前の地球に陸ができてから徐々にしょっぱくなったという説です。
つまり、海水の強烈な塩辛さは、地球が歩んできた46億年の歴史の積み重ねということです。
まんが日本昔ばなし
『塩ふきうす』
放送日: 昭和50年(1975年) 03月18日
放送回: 第0022話(第0011回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 内田好之
脚本: 平見修二
美術: 内田好之
作画: 遠藤克巳
典型: 宝物譚・由来譚
地域: 東北地方(岩手県)
最後に
今回は、『塩ふきうす』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『塩ふきうす』は、何でも欲しいものが出てくる不思議な臼が、今も海底で回り続けているので海の水は塩辛いと語る民話です。ぜひ触れてみてください!