化け物が出るという噂があるお寺に、旅のお坊さんが泊まることになりました。夜になると、使い古され、持ち主に捨てられた古道具の化け物がお坊さんの前に現れました——日本には日々の生活に使っている物にまで魂が宿るとされています。その思想のお話が『踊る化けもの』です。
今回は、『踊る化けもの』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『踊る化けもの』は、長い年月を経た道具などに魂が宿るという日本の伝承の一つである「付喪神」を主題としたお話です。
古来、「物を大切にする」「物の能力を最大限に活用する」という、物に対する尊敬や感謝の念が日本人の心にはあります。
その日本人の精神を反映している、とても美しい日本語が「もったいない」です。
「日本人は『もったいない』の精神を忘れてはならない」と諭しているお話が『踊る化けもの』です。
『踊る化けもの』は、中国地方を中心に伝承されておりますが、似たようなお話が日本各地にも広く伝わります。
それから、付喪神は、百年を経過した道具などに魂が宿り、それが化けるなどして人をたぶらかすとされています。
あらすじ
むかしむかし、ある山間に小さな村がありました。
その村の外れには古いお寺がありました。
そのお寺は、何年もの間、誰も寄りつくことがなく、ネズミさえ住み着かないほど荒れ放題でした。
ある日の夕暮れ時、一人の旅のお坊さんがこの村にやってきました。
そのお坊さんは、
「今夜一晩、この村にご厄介になろうと思っています。この村に寺はありますか」
と村人に尋ねました。
ところが村人は、
「あの寺は止めておいた方がいい。夜になると恐ろしい化け物が出るという噂があるので」
とお坊さんに止めるよう言いました。
「ほう!それはまた面白そうではないか。化け物に会ってみたいものだ」
と言うと、お坊さんは気にすることもなく、すたすたとお寺のある方へ向かって歩き始めました。
長い間、お寺には誰も住んでいなかったので、床は抜け、クモの巣だらけでした。
お坊さんは、本堂に入るとご本尊に手を合わせ、
「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」
と唱えると、本堂の掃除を始めました。
一晩だけ泊まるだけなのに、お坊さんは本堂の隅から隅まで掃除をしました。
掃除を終えると、再びご本尊に手を合わせ、
「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」
とお坊さんは唱えました。
そうこうするうちに、日も暮れて、辺りには不気味な夜が降りてきました。
「さて、眠るとするか」
と言って、お坊さんは本堂の真ん中でごろんと横になりました。
丑三時、お坊さんが眠っていると、
ばさっ ばさっ ばんばらりん
からころ からころ からころりん
どろろん どろろん どんどろろん
じゃんがら じゃんがら じゃんがらりん
おしょろ おしょろ おしょろしょろ
どこからともなく、気味の悪い囃子唄が聞こえてきました。
「なんだ、なんだ?」
とお坊さんが目を覚ますと、その囃子唄がだんだんと近づいてきました。
そして、
「オレたちの正体を当ててみろ。当てられなければ、お前を頭から喰ってやる」
と言ったかと思うと、お坊さんの前に化け物が姿を現しました。
化け物たちは、お坊さんを取り囲むと、囃子唄に合わせて踊り出したのでした。
しばらくの間、お坊さんは化け物たち歌を聴いて踊りを見ていましたが、
「とても楽しそうじゃないか!」
と言って、一緒になって歌い踊り始めました。
ばさっ ばさっ ばんばらりん
からころ からころ からころりん
どろろん どろろん どんどろろん
じゃんがら じゃんがら じゃんがらりん
おしょろ おしょろ おしょろしょろ
お坊さんの歌や踊りで、化け物たちも大いに盛り上がりました。
コケコッコ~~!
一番鶏の鳴き声が聞こえてきて、外が明るくなってくると、
「夜が明ける!惜しいなぁ~」
と化け物たちは口々に言いながら消えていきました。
一人になったお坊さんは、一休みすると、もう一晩このお寺に泊まることにしました。
そして、鉢を持って村に托鉢に出かけました。
村人たちは、お坊さんが何事もなかったように、托鉢をしながら歩く姿を見て、すっかり感心しました。
村人たちは、
「あの方は徳の高いお坊さんに違いない」
と言って、沢山のご馳走を用意してお坊さんを敬いました。
その夜、お坊さんは再びお寺に戻り、本堂の真ん中に座禅を組みながら、化け物たちが出てくるのを待ちました。
丑三時、
ばさっ ばさっ ばんばらりん
からころ からころ からころりん
どろろん どろろん どんどろろん
じゃんがら じゃんがら じゃんがらりん
おしょろ おしょろ おしょろしょろ
昨晩と同じように、どこからともなく囃子唄が聞こえてきました。
そして、化け物たちが姿を現し、座禅を組むお坊さんを取り囲むと、囃子唄に合わせて踊り出しました。
「坊様、歌えや踊れや」
と言う化け物たちに向かって、
「今夜は一緒に遊ばない。ワシが一緒に遊ぶと、お前たちが成仏することが出来なくなるから」
とお坊さんはじっと座禅を組んだまま静かに言いました。
それでも化け物たちは、
「坊様、歌えや踊れや」
と言って、お坊さんを誘いました。
「喝ーーーっ!」
突然、お坊さんは、大声で化け物たちに気合をかけました。
するとどうでしょう、気合と共に化け物たちは消えてしまいました。
翌朝、村人たちが寺に集まり、恐る恐る本堂に入ってみると、お坊さんが本堂の真ん中で座禅を組んでいました。
そして、お坊さんの前には、壊れた傘、下駄、太鼓、鐘、箒がありました。
「この五つの古道具が化け物の正体です。道具たちにも心はあります。人間が己の都合で使い捨てにすれば、化けて出ます。使い終えた道具も感謝しなければなりません」
と村人たちに伝えると、お坊さんは村人たちと一緒になって、五つの古道具を本堂の前に運び出しました。
「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」
とお坊さんは念仏を唱えながら、六つの古道具を火にくべて燃やしました。
無事に古道具たちは成仏しました。
それからというもの、村人たちは古道具といえども、大切に扱うようになりました。
解説
古来、日本には、長い年月を経て使い続けた道具には、魂が宿るという思想があります。
そして、使い古された道具は、意思を持つとされています。
さらに、意思を持った古道具は、人をたぶらかすともされます。
これは「付喪神」と呼ばれています。
付喪神に関する初出は、室町時代に成立したとされる御伽草子系の絵巻物『付喪神絵巻』と考えられています。
日本において、古い道具が変化したものを付喪神と呼ぶようになったのは、『付喪神絵巻』の冒頭にある「陰陽雑記云、器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を誑す、これを付喪神と号すといへり」という詞書きによるものである。
付喪とは九十九という意味で、「百歳に一歳足りない道具の精」を表しています。
平安時代に成立したとされる『伊勢物語』の六十三段には、「百年に 一年たらぬつくも髪 我を恋ふらし 面影に見ゆ」という、老婆が在原業平に恋をする和歌があります。
現代語訳では、「百歳に一歳たりないほどの白髪の老女が私を恋しているらしい。その姿がありありと目に浮かぶ」となります。
これは、百の漢字の上の一を引くと「白」になることから、白髪の老女や老女のことを「九十九髪」と呼ぶことを受けて、長い時間のことを「九十九年」と示していると解釈できます。
それから、現時点では『陰陽雑記』という書籍は確認されておらず、その正確な出典および字義は不明です。
また、牡丹花肖柏によって文明9年(1477年)に成立したとされ、『伊勢物語』の注釈書である『伊勢物語抄』(冷泉家流伊勢物語抄)では、『陰陽雑記』にある説として百年生きた狐狸などが変化したものを「付喪神」としています。
感想
「もったいないを知り、ありがたいを悟る」
これはパナソニック創業者の松下幸之助が残した言葉です。
さて、日本人の誇りと言っても過言ではない「もったいない」という精神は、仏教用語である「勿体」に由来する言葉です。
「勿体」とは「本来のあるべき姿」という意味で、「勿体ない」とは「本来のあるべき姿ではない」という意味になります。
古来、日本には「全ての物は繋がっている」という考えがあります。
つまり、物を粗末にするというのは、自分の命を削ってしまうことに等しいと考えられています。
そのため、日本人は「もったいない」という精神で、様々な工夫をしながら物を大切に、最後まで使いつくすようにしてきました。
世界には「もったいない」を表す言葉がないとされています。
地球上には多くの資源があります。
しかし、その資源が限られていると知られている現在でも、資源をどんどん使い、便利な暮らしを続けています。
限りある資源を大切に正しく活かし将来につないでいくことが、今を生きる私たちの使命ではないでしょうか。
まんが日本昔ばなし
『踊る化けもの』
放送日: 昭和52年(1977年)08月06日
放送回: 第0154話(0095 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『妖怪と人間 (日本の民話 7)』 瀬川拓男・松谷みよ子 (角川書店)
演出: 殿河内勝
文芸: 境のぶひろ
美術: 青木稔
作画: 殿河内勝
典型: 怪異譚
地域: 中国地方
最後に
今回は、『踊る化けもの』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
古来、日本では、長い年月をかけて道具を使い続ければ、やがて道具には魂が宿り、更には神になると言われていました。今とは違って、昔は物をとても大切に使いました。壊れても修理をして、親から子へと物は受け継がれていったので、『踊る化けもの』のお話にある様に、物に魂が宿り動き出すようなことが日常的にあったのかもしれませんね。ぜひ触れてみてください!