朝から晩まで、休みなく何年も働き続けて、やっと貯めた金銀を、椿の根元に埋めたことで、椿がその金銀を吸い取ってしまい、せっかく貯めた金銀がすっかりなくなってしまうという、主人公が不思議な現象を体験するお話が『玉屋の椿』です。
今回は、『玉屋の椿』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『玉屋の椿』は、昔話の中に数多くみられる「長者伝説」の一つで、越後国の鯨波(現在の新潟県柏崎市鯨波)がお話の舞台といわれています。
日本の昔話の中に数多くみられる「長者伝説」は、その多くが、最後は大金持ちになり幸せに暮らすという幸福な結末を迎えますが、この『玉屋の椿』は、皮肉と哀愁に満ちた不思議であり意外な結末を迎えます。
さて、お話の舞台である鯨波は、現在も新潟県の日本海に面したところにあり、鯨波海水浴場は「日本海側における海水浴場発祥の地」といわれ、新潟県を代表する海水浴場で、「日本の渚百選」にも入選しています。
地名である鯨波は、かつては鯨がたくさん獲れた場所であったことに由来するとされます。
あらすじ
むかしむかし、越後国の鯨波に玉屋徳兵衛という男がおりました。
徳兵衛は大変な働き者で、朝から晩まで休みなく何年も働き続けて、お金持ちの立派な長者になりました。
若くて美しいお嫁さんをもらい、玉のような男の子にも恵まれ、何ひとつ不自由ない暮らしで、人々からうらやまれていましたが、財産が増えれば増えるほど、「泥棒に入られたりしないか」という心配が起こり、夜も眠れないほどでした。
そこで、考えに考えた末、
「誰にも知られないようにして、数え切れないほどの金銀を、裏の竹藪の中にある一本の椿の根元に埋めよう」
と徳兵衛は考えました。
ある暗い晩、こっそり夜中に起きて、椿の根元に深い穴を掘って、誰にも分からないように、金銀を埋めてしまいました。
それで、ひと安心したものの、日が経つにつれて、
「あの晩、誰かに金銀を埋めているところを、こっそり見られてはいないだろうか」
と心配して、夜も眠れず、とうとう徳兵衛は病気になってしまいました。
家の者や周りの人たちから、
「気晴らしに、温泉でもいってらっしゃい」
と徳兵衛は勧められました。
徳兵衛もその気になって、番頭一人を連れて、加賀の山中温泉へ湯治にいきました。
温泉につかっているうちに、だんだん体の具合も良くなり、徳兵衛は喜んでいました。
それから、幾日か過ぎたある日のこと、徳兵衛が温泉につかりのんびりしていると、どこからか唄声が聞こえてきました。
「越後鯨波、玉屋の椿、枝は白銀、葉は黄金」
その唄声を聞き、徳兵衛はギクリとしました。
そして、心配でたまらず、番頭を呼んで唄声のことを話すと、
「玉屋の繁盛を褒め称えた唄なので、気にすることはありません」
と徳兵衛は番頭から言われました。
しかし、身に覚えがある徳兵衛にとっては一大事です。早速、籠を用意させて、取るものも取り敢えず、鯨波の家に帰りました。
帰宅すると、大慌てで裏の竹藪の椿の木のところに向かった徳兵衛は、
「アッ」
と大声を上げました。
それもそのはずです。椿の木は、夕日を浴びて、唄の文句の通り、枝は白銀に輝き、葉は黄金の花ざかりだったのでした。
あまりのことに驚いた徳兵衛は、その場にばったりと倒れて気を失い、そのまま寝込んでしまいました。
家の者や周りの人たちは、突然の帰宅といい、徳兵衛の卒倒といい、何がどうなっているのかさっぱり分かりませんでした。
お嫁さんが、
「どうしたのですか」
と徳兵衛に尋ねると、
「椿の根元に、家中にある金銀を埋めたら、あの椿が金銀を吸いとってしまった」
と徳兵衛は叫びました。
そして、
「わしが死んだら、椿の根元を掘ってみよ」
と徳兵衛はお嫁さんに言い残すと、息を引き取りました。
お嫁さんは、徳兵衛の言いつけ通り、椿の根元を掘ってみましたが、出るものは石や瓦かけばかりで、金銀はすっかりなくなっていて、何も見つかりませんでした。
今では、玉屋の庭は海の底となり、どういうわけか、その辺りの波だけはキラキラと輝き、その昔を語っているかのようです。
解説
大正9年(1920年)に出版された中野城水の『伝説之越後』には、次のような記載があります。
柏崎の浜続き鯨波と云へば北国切っての名所になった、殊に塔の輪の眺望に至っては世にも床しいもの、明治天皇が北越御巡幸の際、暫し御立ち給ひて珍らしき風景よと仰給ひしとは、げに尤もよと首肯かぬものとてあるまい。
彼の塔の輪の下は今は頭蓋が淵とか称して其の底さへ見えぬまでに水深くなってゐるが、其昔はあの辺までは陸続きで其處には玉屋といふ長者の屋敷があったと伝ひられてゐる。
この場所は、現在では、日本海を望む新潟県柏崎市の鯨波の高台にあり、風光明媚な場所として知られる御野立公園と伝わります。
つまり、『玉屋の椿』のお話の元になった長者の玉屋は実在したということです。
それから、『玉屋の椿』には、その後のお話がありまして、そのお話は、新潟県では『白ツバキの夢』や『夢買長者』として知られる『夢を買う』です。
『越後の民話 第2集 ([新版]日本の民話 70)』は、未來社から出版されています。「白ツバキの夢」や「夢買長者」など、優れた伝承者たちから採集した越後に伝わる民話のうち、世界の諸民族の民間説話と類似や一致するもの、また遠い祖先たちの信仰や精神生活のきっかけとなるものを75篇とわらべうたが収録されています。感想
『玉屋の椿』は、「お金に対する執着」がテーマのお話です。
不思議なことに、お金は執着すればするほど、逆に逃げていくといわれます。
商売で失敗したり投資で損をしたりすると、「お金さえあれば」という“拝金主義”の考えにおちいり、心は負のエネルギーに支配されます。
お金も物質です。負のエネルギーに支配された心で集められたお金は、負のエネルギーに満ちているので、いつかは正体を表します。
それが最もわかりやすい例が、東京2020オリンピック・パラリンピックでの談合や汚職事件ではないでしょうか。
この事件が表沙汰になったのは、負のエネルギーに満ちたお金が正体を表し、心が負のエネルギーに支配された拝金主義者の元から離れていった結果といえます。
ことわざにありますが、「悪銭身に付かず」ということです。
それから、拝金主義者になってしまうと、大事なものはお金ですから、「いかにしてお金を稼ぐか」という思考になり、すべての物事を損得で考えるようになります。
つまり、人間関係も損得で勘定するようになるということです。
ところが、人間関係は損得では図れません。
そんな、金の亡者と化した拝金主義者からは、お金だけではなく、人も離れていきます。
お金は、生きていく上で必要なものですが、執着が強すぎると痛い目にあうと、『玉屋の椿』は説いているということです。
まんが日本昔ばなし
『玉屋の椿』
放送日: 昭和52年(1977年)03月05日
放送回: 第0121話(0074 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 『日本の伝説 5 (松谷みよ子のむかしむかし 10)』 松谷みよ子 (講談社)
演出: 漉田実
文芸: 漉田実
美術: 阿部幸次
作画: 高橋信也
典型: 長者伝説
地域: 中部地方(新潟県)
最後に
今回は、『玉屋の椿』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
お金は、生きていく上で必要なものですが、執着が強すぎると痛い目にあうと、『玉屋の椿』は説いています。ぜひ触れてみてください!