昔話『空をとんだキツネ』のあらすじ・内容解説・感想|おすすめ絵本
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 ある小僧こぞうけたキツネがおてらにやってきました。和尚おしょうさんは、はたらもの小僧こぞう大変たいへんり、とても可愛かわいがりました。しかし、キツネには小僧こぞうけてでもおてら理由りゆうがありました——日本にっぽんには、キツネが登場とうじょうするむかしばなしかずおおくありますが、『そらをとんだキツネ』もその一つです。

 今回こんかいは、『そらをとんだキツネ』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします!

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概要

 『そらをとんだキツネ』は、中国ちゅうごく地方ちほうぞくする岡山県おかやまけん岡山市おかやまし舞台ぶたいのおはなしといわれています。

 キツネは、日本にっぽん民話みんわ寓話ぐうわ伝承でんしょう呪術じゅじゅつ信仰しんこうなどにおいて、その主役しゅやくとなっている場合ばあいがとてもおお動物どうぶつです。

 キツネはけて、人間にんげんだましたりまどわしたりする狡猾こうかつ動物どうぶつという印象いんしょうちます。しかし、その一方いっぽうで、キツネは穀物こくもつ農業のうぎょう神様かみさまである稲荷いなりのかみのお使つかいという、神聖しんせい動物どうぶつという印象いんしょうちます。

 それは、古来こらい日本人にっぽんじん生活せいかつ様々さまざま場面ばめんでキツネと遭遇そうぐうしていたというあらわれでしょう。

 岡山県おかやまけんは、みなみ瀬戸せと内海ないかいきた蒜山ひるぜん高原こうげんなど自然しぜん豊富ほうふでありながら、ふるくから本州ほんしゅう四国しこくむす玄関げんかんぐちとしておおくの人々ひとびとい、発展はってんしました。

 また、むかしばなしもも太郎たろう』ゆかりのである岡山県おかやまけんは、岩手県いわてけん同様どうように、民話みんわ宝庫ほうこでもあります。

なおげん時点じてんでは『そらをとんだキツネ』にかんする絵本えほん存在そんざいしません。

 絵本えほんきつね (えほん遠野とおの物語ものがたり だいさん)』は、汐文社ちょうぶんしゃから出版しゅっぱんされています。岩手県いわてけん遠野とおの地方ちほうつたわる怪異かいい物語ものがたりを、柳田やなぎた國男くにお先生せんせいきのこしたものが名著めいちょ遠野物語とおのものがたり』です。京極きょうごく夏彦なつひこさんによるあらたなかたりと、樋口ひぐち佳絵かえさんによるくすんだ・・・・色合いろあいで不思議ふしぎ雰囲気ふんいきのある一体いったいとなり、『遠野物語とおのものがたり』がはつ本格的ほんかくてき絵本えほんとして現代げんだいによみがえりました。ゆたかな伝承でんしょういろどられたやまかわさとの、そこかしこにひそ不思議ふしぎ世界せかいは、ときにあやしく、ときにはなぞおどろきにちています。百年ひゃくねんときえた、ひとかす遠野とおののキツネの物語ものがたり3ぺんが、わたしたちのこころをふるわせます。

 『岡山おかやま民話みんわ ([新版しんぱん]日本にっぽんのむかしばなし 36)』は、未來社みらいしゃから出版しゅっぱんされています。岡山県おかやまけんふるくからつたわる民話みんわを、吉備きび文化ぶんか中心ちゅうしんである吉備きび高原こうげん地方ちほうをはじめ、横仙よこせん山中さんちゅう地方ちほう内海うちうみ地方ちほうみっつの地域ちいきけて、「がわり観音かんのん」「そらきつね」などの岡山おかやまふるくからつたわるめずらしくてもしたしみのある50ぺん民話みんわと、どもたちにうたいつがれている郷土きょうどのわらべうたが収録しゅうろくされています。

 オンデマンドばん岡山県おかやまけん民話みんわ (県別けんべつふるさとの民話みんわ)』は、偕成かいせいしゃから出版しゅっぱんされています。ふる歴史れきしと、温暖おんだん自然しぜんめぐまれた備前びぜん平野へいや吉備きび高原こうげん舞台ぶたいに、「もも太郎たろう」や「一本いっぽんあしのげた」など、勇気ゆうき知恵ちえはたらかせて大蛇だいじゃおになどを相手あいて活躍かつやくする主人しゅじんこうたちの民話みんわが33ぺん収録しゅうろくされています。

あらすじ

 むかしむかし、備中国のある山に、ごんぎつねというキツネがすんでおりました。

 ある日、ごんぎつねは、気持ちよさそうに空を飛ぶトンビを眺めながら、
 「オイラもトンビみたいに空を飛んでみたいなぁ」
と思いました。

 キツネが空を飛ぶには、お寺のお守り札が必要なので、さっそく里のお寺へ向かいました。

 ごんぎつねは男の子に化けて、あるお寺を訪ねました。

 「和尚さん、私をこのお寺で働かせてくださいませ」
と頼みました。
 「飯炊きや掃除はできるか」
と和尚さんに言われたので、
 「はい、なんでもいたします」
と答えました。
 「よかろう。寺にいた働き者の飯炊きが辞めてしまい、ひとりで困っておったところだ。今日からここで働くがいい」
と和尚さんは言い、男の子を小僧としてお寺で使うことにしました。

 あくる朝、目を覚ました和尚さんが、
 「小僧や、小僧や」
と言って小僧を呼ぶと、
 「おはようございます。和尚さん、何のご用でございますか」
と言って小僧がやってきました。

 「小僧や、今朝は豆腐の味噌汁をこしらえてくれ」
 「はい、それならもうできております」
 「なに、もうできておるのか。なかなかよく気が利くのう」

 和尚さんは、不思議に思いながら、味噌汁を一口吸ってみました。
 「ほう、味付けもなかなかいいじゃないか」
と和尚さんは言って、すっかり感心してしまいました。

 昼時になり、また和尚さんが、
 「小僧や、小僧や」
と言って小僧を呼ぶと、
 「和尚さん、何のご用でございますか」
と言って小僧がやってきました。

 「昼には、こんにゃくの白和えをこしらえてくれ」
 「はい、それならもうできております」
 「なに、もうできておるのか」

 小僧がよく気が利くので、和尚さんは、また驚いたのでした。

 日が暮れる頃になって、またまた和尚さんが、
 「小僧や、小僧や」
と言って小僧を呼ぶと、
 「和尚さん、何のご用でございますか」
と言って小僧がやってきました。

 「晩には、裏の畑のホウレンソウを使って、おひたしをこしらえてくれ」
 「はい、それならもうできております」
 「なに、もうできておるのか」

 和尚さんは、またまた驚いて、
 「お前は本当によく気が利く小僧じゃ。そのおかげで、ワシはいつも欲しいものが食べることができるよ」
と言って、献立を先読みして食事の準備する小僧のことを、すっかり気に入ってしまいました。

 ある日、檀家から法事を頼まれたので、
 「小僧や、今日は法事があるので、ちょっ出かけてくるから、しっかり留守を頼んだよ」
と和尚さんは小僧に言いつけて、ひとりで出かけていきました。

 法事が終わると、和尚さんは、急いでお寺に帰ってきて、
 「小僧や、小僧や」
と呼びましたが、小僧からの返事はありません。

 「小僧や、小僧や」
と大声で呼びながら、あっちこっちを和尚さんが探し回ると、囲炉裏の方から
 「ガー、ゴー、ガー、ゴー」
ともの凄く大きないびきが聞こえてきました。

 和尚さんが覗いてみると、そこには疲れて眠るキツネがおりました。

 「不思議な小僧と思っていたが、このキツネが化けた姿だったのか」
と思った和尚さんは、その晩は何も言わず、そっと寝かしておきました。

 翌朝、和尚さんの部屋に小僧がやってきて、
 「和尚さんに正体がばれてしまったので、今日限りでお暇を頂きとうございます」
と、きちんと座って頭を下げながら丁寧に言いました。

 「分かった。そんなら何のためにこの寺にやってきたんだね」
と小僧に和尚さんが尋ねると、
 「はい、このお寺の天井裏にある、不思議なお守り札が欲しくて、やってまいりました」
と答えました。

 「そんなもの、どうするんだ」
と和尚さんが尋ねると、
 「私は色々なものに化けることができますが、空を飛ぶものにはどうやっても化けることができません。しかし、お守り札があればトンビの様に空を飛ぶことができるのです」
と小僧は答えました。

 「よし分かった。今までよく働いてくれたから、そのお礼として、お寺のお守り札をお前にやろう」
と和尚さんが言うと、
 「それでは私の気がすみません。お釈迦様の行列をお見せするので、和尚さんを上手に騙すことができたら、お守り札をいただくことにします」
と言った小僧は、くるりととんぼ返りをしました。

 すると、あたりの景色が急に変わり、和尚さんの目の前には立派な御殿あり、その庭は桜が咲き乱れていました。

 最初に、黄色い衣を着た和尚さまが、しゃなりしゃなりと木の間から出てきました。

 そのあと後には、橙色の衣の和尚さまや紫色の衣の和尚さまが、次から次へと大勢続いてやってきました。

 そして、行列の最後は、みすぼらしい衣の和尚さまが金色の光をまとって、しゃなりしゃなりとこちらに近づいてきました。

 そのあまりの美しい光景に、和尚さんは思わず手を合わせて、
 「ああ、このお方がお釈迦様じゃ。もったいないことじゃ。ありがたや、ありがたや」
と言いながら拝んだのでした。

 そのとたん、立派な御殿も桜の花もお釈迦様の行列も消えてしまい、元の古寺に戻っていました。

 そして、ハッとした和尚さんが顔を上げると、青い空にお札を首から下げた一匹のキツネが、トンビの様に円を描いて嬉しそうに飛んでいる姿が見えたそうです。

解説

 人間にんげんをはじめとした様々さまざまなものに変身へんしんするなどして、人間にんげんかしたり、たぶらかしたりするぎつねは、妖狐ようこともばれ、日本にっぽんではきつね妖怪ようかいかんがえられています。

 じつは、稲荷いなりのかみ、および稲荷いなり神社じんじゃ信仰しんこうする人々ひとびとあいだでは、この妖怪ようかいは、神格しんかくちがいによって階級かいきゅうがあるとされています。

 江戸えど時代じだい末期まっき儒学じゅがくしゃ皆川みながわ淇園きえんしるした随筆ずいひつ善庵ぜんあん随筆ずいひつ』によると、上位じょういから天狐てんこ空狐くうこ気狐きこ野狐やこじゅんであるとされています。

天狐てんこ

 せんさいえたきつねだけがなることができ、千里せんりがん様々さまざま物事ものごととおすなどの強力きょうりょく神通力じんつうりきつとされ、かみひとしい存在そんざいとされます。天狐てんこ天狗てんぐ同一どういつのものであるというせつもあります。京都きょうと伏見稲荷ふしみいなり大社たいしゃ一ノ峰いちのみね(上社かみのやしろ神蹟しんせき)には、小薄おすすきという天狐てんこ末広大神すえひろおおかみ(大宮能売大神オオミヤノメノオオカミ)としてまつられています。

空狐くうこ

 せんさいえ、天狐てんこ神通力じんつうりきつとされ、千里せんり一瞬いっしゅんぶなど、神通力じんつうりき自在じざいあやつれるきつねとされます。気狐きこばい霊力れいりょくっているとされています。

気狐きこ

 野狐やこよりもくらいすすんだきつねとされ、天狐てんこ空狐くうこいたまえのまだ修行しゅぎょうちゅうきつねします。稲荷いなり神社じんじゃでのかみ使つかいは気狐きことされています。

野狐やこ

 人間にんげんたいして悪事あくじ悪戯いたずらをするきつね総称そうしょうとされています。妖狐ようこなかでは階級かいきゅうもっとひくく、なん神格しんかくたないきつねとしてあつかわれます。

 妖狐ようこ実体じったい視覚しかくとらえることができるのは野狐やこのみで、気狐きこよりうえ階級かいきゅうでは姿すがたかたちがなく、霊的れいてき存在そんざいとされています。

感想

 『そらをとんだキツネ』は、おおくの日本にっぽんむかしばなしにみられるような、人間にんげんがキツネに仕返しかえしをされるわけでもなければ、キツネに人間にんげん仕返しかえしをされるわけでもありません。人間にんげん女性じょせいけたキツネが、人間にんげん男性だんせい婚姻こんいんするおはなしでもありません。

 では、『そらをとんだキツネ』は、どのような教訓きょうくんつたえようとしているのでしょうか。

 けてもそらべないという弱点じゃくてんがあるキツネが、苦労くろうしていても、はげんでいれば、いつかは物事ものごと方向ほうこうへとみちびかれるという内容ないようの『そらをとんだキツネ』は、すこ特異とくいなおはなしなのかもしれません。

 しかし、前向まえむきにきるキツネの姿すがたからは、意欲いよく勇気ゆうきあたえられます。

 もちろん『そらをとんだキツネ』のように、簡単かんたん物事ものごとすすむことは、現実げんじつ世界せかいではなかなかありません。

 それでも、おはなし登場とうじょうするキツネの姿すがたをみていると、くるしいことがほんのすこしだけらく気持きもちになります。

 まずしくても、おとっていても、たすけてくれるひとかならずどこかにいるとおもえば、希望きぼうってきることができます。

 人生じんせいには転機てんき展開てんかいがあることをることが、くための手段しゅだんであるとさとしているのが、『そらをとんだキツネ』とかんがえられます。

まんが日本昔ばなし

そらをとんだキツネ
放送日: 昭和51年(1976年)12月11日
放送回: 第0101話(第0062回放送 Bパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 『岡山おかやま民話みんわ ([新版しんぱん]日本にっぽんのむかしばなし 36)』 稲田浩二 (未來社)
演出: 漉田実
文芸: 漉田実
美術: 槻間八郎
作画: 樋口雅一
典型: 霊験譚れいげんたん狐譚きつねたん
地域: 中国地方(岡山県)

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最後に

 今回こんかいは、『そらをとんだキツネ』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

 日本にっぽんには、キツネが登場とうじょうするむかしばなしかずおおくあります。おおくのむかしばなしでは、キツネがけて人間にんげんだましたりまどわしたりする狡猾こうかつ動物どうぶつとしてえがかれています。しかし、『そらをとんだキツネ』でえがかれたキツネのように、なかには義理ぎりがたいキツネもいるようです。ぜひれてみてください!

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