『あずきとぎ』は、ショキショキと音をたて「小豆洗おか、人取って喰おか」と歌いながら川のほとりで小豆を洗うといわれる日本の妖怪です。
今回は、『あずきとぎ』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『あずきとぎ』は『小豆とぎ』または『小豆洗い』とも呼ばれ、日本では知名度がとても高い妖怪です。
日本全国で知られる妖怪だけあって、出没地域も全国各地に言い伝えがあります。
『あずきとぎ』の妖怪の由来とされる、天保12年(1841年)に刊行された桃山人の奇談集『絵本百物語』にある「あずきあらい」によれば、越後国の高田(現在の新潟県上越市)の山寺にいた小僧が命を奪われ、それが化けて出たと紹介されています。
また、『あずきとぎ』の正体を、イタチやキツネ、タヌキ、ムジナなどの小動物とする地方もあります。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、それは気味の悪いお寺がありました。
そのお寺には、化け物が出るとの噂がありました。
ある晩、村の若い衆が、お爺さんから、お寺の化け物の話を聞いていました。
「あの寺には色々な化け物がおる。その中でも、一つ目に怖いのが人魂。二つ目に怖いのが身投げの古井戸。三つ目が恨めしやの柳。四つ目が動く墓石。五つ目に出てくるのが一本足の傘小僧」
と、お爺さんの話が盛り上がるほどに、村の若い衆は震え上がりました。
けれども、兵六という男だけは、平気な顔であまり怖がっていない様子でした。
そんな兵六の様子に、
「これだけは、お前でも怖いはずじゃ。小豆とぎのお化けじゃ」
とお爺さんは、また化け物の話を始めました。
「小豆とぎは、寺の本堂に住みつくお化けで、誰ひとり正体を見たものはおらん」
さらに続けて、
「『ショーキ、ショキショキ、小豆とぎましょうか。それとも人間を取って食いましょうか。ショーキ、ショキショキ』と声だけがするそうじゃ。これが一番怖いお化けじゃ」
とお爺さんは言いました。
ところが、兵六ときたら、
「おら、なんともね」
と言うので、それならば肝試しをしようということになりました。
村の若い衆は、暗いお寺の山門から、さらに暗く不気味な墓場に兵六を連れていきました。
墓場に着くと、提灯のお化けが早速ケタケタと笑い出しました。
「出たー!」
と言って村の若い衆の何人かは逃げ出しました。
でも兵六は、
「おら、なんともね」
と言いました。
古井戸ではガイコツが飛び出し、柳の木の下では幽霊が顔を出し、傘小僧に脅かされても、兵六は平気でした。
村の若い衆はとっくに逃げ出し、もう誰もいませんでした。
一人になった兵六は、本堂の真ん中で座り込みました。
「こんばんは。小豆さん、ちょっくら顔を見せてくだせえ」
と兵六が言うと、稲光が突然起こり、何やら不気味な声が聞こえてきました。
「ショーキ、ショキショキ、小豆とぎましょうか。それとも人間を取って食いましょうか。ショーキ、ショキショキ」
兵六は、小豆とぎの声にあわせて、
「ショーキ、ショキショキ、小豆さん、他に言うことはないのかね」
と言いました。
いくら小豆とぎが怖がらせようとしても、兵六はちっとも堪えませんでした。
小豆とぎは、とうとう困り果てて、
「これでもくらえ!」
と言うと、天井から、それはそれは大きな“ぼた餅”が落ちてきました。
そのぼた餅の甘いこと美味しいこと。
それからというもの、兵六は、夜な夜なお寺に出かけては、小豆とぎのぼた餅をごちそうになるようになりました。
ある日、ぼた餅の話を村の若い衆に話したところ、本当の話かどうかを確かめることになり、村の若い衆も一緒に本堂へ行くことになりました。
「こんばんは。今夜は村の衆も連れてきたので、でっかいぼた餅をお願いします」
と兵六が小豆とぎにお願いしましたが、その日に限って小さなぼた餅すら落ちてきませんでした。
「おら、嘘つきになってしまう」
と怒鳴る兵六の前に、天井から巨大なナスが落ちてきました。
「毎度毎度、ぼた餅はないわ。たまにはナスの漬物でお茶でも飲んでろ。これが本当の“おもてナス”じゃ」
と小豆とぎは下手なダジャレを言うと、それからは二度と現れることはなくなったそうです。
解説
『あずきとぎ』は、水木しげるの妖怪漫画『ゲゲゲの鬼太郎』にも登場したことがある、日本では知名度がとても高い妖怪です。
そこで、日本各地の伝承を簡単にご紹介します。
江戸時代後期に刊行された白河藩士・広瀬典の『白河風土記』巻四に『あずきとぎ』のことが記されています。
そこには、鶴生(現在の福島県西白河郡西郷村)の奥地の高助という所の山中では、炭窯に宿泊する者は時として鬼魅の怪を聞くことがあり、その怪を「小豆磨」と呼ぶとあります。
さらに、夜中にサクサクと小豆を磨ぐ音がするので、炭焼き小屋に近づいてみてもそこには誰もいないともあります。
茨城県や新潟県佐渡島では『あずきとぎ』は「小豆洗い」と呼ばれ、背が低く目の大きい法師姿で、笑いながら小豆を洗っていると伝わります。
「小豆洗い」は縁起の良い妖怪といわれ、娘を持つ女性が小豆を持って谷川へ出かけてこれを目にすると、娘は早く縁づくといわれています。
大分県では『あずきとぎ』は、川のほとりで「小豆洗おか、人 取って喰おか」と歌いながら小豆を洗うと伝わります。
その音と歌に気をとられてしまうと、知らないうちに川べりに誘導され落とされてしまうともいわれています。
そして、音と歌が聞こえるだけで、姿を見た者はいないともいわれています。
長野県松本市では『あずきとぎ』は、木を切り倒す音や赤ん坊の泣き声をたてると伝わります。
群馬県邑楽郡邑楽町や島根県では『あずきとぎ』は、人をさらう者といわれています。
感想
『あずきとぎ』と呼ばれるだけあって、伝承の多くは小豆を洗うのに必要となる川や井戸などの水と関係しています。
それは、水のあるところを甘くみたり、軽く考えたりしてはいけないとう警告と、水難事故を未然に防ぐために、計り知れない水の恐ろしさを伝えているように感じます。
過去の被災経験を民話などとして後世に残したものを「災害伝承」と呼び、地域や家庭で伝えられてきました。
しかし、災害伝承や妖怪の言い伝えは“科学的な根拠を証明できない”という理由から、長く地域の中で埋もれてきました。
昔話や妖怪のお話を面白がるだけではなく、なぜその土地にそのお話が伝わっているのか、その背景を考えることは、とても楽しいことです。
そして、本当に自然災害や事故、事件などと結びつく、昔話や妖怪のお話が見つかるかもしれません。
昔話や妖怪のお話は時代を超え、今も地域の自然災害や事故、事件などを語り続けているかもしれませんよ。
まんが日本昔ばなし
『あずきとぎ』
放送日: 昭和51年(1976年)07月31日
放送回: 第0071話(第0043回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 小華和ためお
文芸: 境のぶひろ
美術: 半藤克美(スタジオユニ)
作画: 土田プロ
典型: 怪異譚
地域: 中部地方
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『あずきとぎ』は「DVD-BOX第3集 第11巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『あずきとぎ』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
川や井戸などから「シャキシャキ」と小豆を洗う不気味な音が聞こえてきたら、それは『あずきとぎ』の仕業かもしれませんよ。ぜひ触れてみてください!