『七夕さま』は、愛し合う男と女が、天上界の王の怒りに触れ、離ればなれにされますが、年に一度、七月七日の夜に天の川をはさんで会うことを許されたという物語です。
今回は、『七夕さま』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
「羽衣伝説」とも呼ばれる『七夕さま』は、日本各地に数多くの類話が存在し、民間に伝わる伝承説話として語り継がれてきました。
日本の羽衣伝説で最も有名なものは、静岡県静岡市清水区の三保半島にある「三保の松原」に伝わるお話ではないでしょうか。
「七夕伝説発祥の地」といわれる大阪府枚方市・交野市に伝わるお話や、鹿児島県奄美大島にも伝わる天女のお話もとても有名です。
最も古いとされる羽衣伝説は、『風土記』の逸文となりますが、『近江国風土記』と『丹後国風土記』でみることができます。
日本各地の羽衣伝説は、この『風土記』の逸文が各地に広まり、その地に根付いたものと考えられています。
また、天女はしばしば白鳥と同一視されてきたため、『白鳥の乙女 (The Swan Maidens)』として、アジアをはじめ広く世界中にお話が伝わっています。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、土鍋を売り歩く男がおりました。
ある日、いつものように男が土鍋を売り歩いていると、湖で娘たちが水浴びをしているのを見かけました。
「気持ちよさそうじゃのう」
と男は思いながら、ふと目の前を見ると、湖畔の木の枝に美しい羽衣がかけてありました。
「なんて美しくて珍しい羽衣だ」
と男は思い、どうしても羽衣が欲しくなってしまい、一着だけ盗んでしまいました。
その日の夕方、男が仕事を終えて、昼間に訪れた湖を通りかかると、一人の美しい娘が裸で泣いておりました。
男はこの娘に一目惚れしてしまいました。
「娘さん。どうしたんだい」
と男が娘に尋ねました。
すると娘が、
「水浴びをしているうちに、羽衣を盗まれてしまいました」
と言いました。
そして、
「あの羽衣がないと私は帰ることが出来ないのです」
と言いました。
男は羽衣を返そうと思いましたが、一目見てすっかり娘を気に入ってしまったため、
「羽衣がなくて帰れないのなら、私の家で一緒に暮らしませんか」
と男は娘に言い、娘を嫁にしてしまいました。
男と娘は仲良く暮らし、二人の間には子どもが生まれました。
ある日のこと、娘は天井の梁から何か包みがぶら下がっていることに気がつきました。包みを開けてみると、中には娘が湖で盗まれた羽衣が隠してありました。
謝る男に娘は、
「私は天女です。羽衣が見つかったので、天に還らなければなりません」
と言って、羽衣をまとった娘は、子どもを抱いて天に昇っていきました。
その際、
「もし私に会いたかったら、わらじを千足編んで、竹の根元に埋めなさい」
と言い残しました。
男は娘に会いたい一心で、わらじを編み続けました。朝から晩までわらじを編み続け、あと一足で千足のわらじが出来あがるとこまできました。
娘に早く会いたくて仕方のなかった男は、我慢ができず、千足より一足少ないわらじを竹の根元に埋めました。
その途端、竹がぐんぐん天に向かって伸び始めました。男は娘のいる天上界に向かって竹を登りはじめましたが、もう少しのところで竹は天には届かず、ぴたりと伸びなくなってしまいました。
「おーい」
と男は叫びました。
叫び声に気づいた娘が下をのぞくと、男が泣きそうな顔で手を振っていました。
娘には、男がわらじを一足編んでいないことが、すぐに分かりました。
それでも娘は、手を伸ばして愛する男を天に引き上げました。
二人は再会を喜びましたが、天にいる娘の両親は、自分たちの許可なく勝手に娘を嫁にした男のことを快く思っていませんでした。
そこで男を困らせてやろうと、父親は娘と結婚する代わりに男に無理難題を言いつけました。
しかし、男はそれを何とかこなしていきました。
男を知恵者と思った父親は、男に褒美を与えることにしました。
「お前に瓜をやろう。畑に行って好きなだけ食べるがいい」
と父親は男に言い、続けて、
「ただし、瓜は必ず縦に切れ」
と言いました。
早速、男は喜んで瓜畑へ向かいました。
男は言われた通り畑の瓜を縦に切ると、瓜から大量の水があふれ出し、その水は大きな天の川となって男を流してしまいました。
流される男に向かって娘は、
「七日に会いましょう」
と言いました。
ところが、男がこれを七月七日と聞き間違えてしまい、二人は年に一度、七月七日に天の川をはさんでしか会えなくなってしまいました。
これが七夕の始まりと言われています。
解説
天女とは仏教用語です。人間界の上にある天道に住む存在のことを天女と呼びます。
さて、「羽衣伝説」とも呼ばれる『七夕さま』のお話は、『近江国風土記』と『丹後国風土記』など多くの文献にみえており、日本各地にさまざまな類話 で存在 します。
いずれのお話も天女が地上の川や湖に天降って水浴をしていると、人間の男が天女の羽衣を盗み、天に帰れなくなった天女が、やむをえず羽衣を隠した男の妻となり子をもうけるが、やがて羽衣をみつけて再び天に帰るというのが標準的な筋です。
沖縄本島から喜界島にかけて伝わるものには、さらに難題婿の要素を加え、天の川の由来となっているお話もあります。
静岡県静岡市清水区の三保半島にある「三保の松原」の伝説は、お能の人気演目『羽衣』によって広く知られるようになりました。
感想
「男が天女の水浴びを覗き、そして天女の羽衣を盗む」という、とんでもない行為から『七夕さま』の物語は始まります。
男は羽衣を返さず、さらに天界へ還ることができず困った天女を、有無を言わせず妻にしまいます。
二人の間に子どもが生まれ、天女にも男に対して愛情が生まれたものの、羽衣を取り戻してからの行動はとても早いものでした。
それは、羽衣を盗み天界に還れないようにしておきながら、何食わぬ顔で結婚生活を送っていた男への絶望と怒りがそうさせたのでしょう。
もし、男が盗んだ羽衣を天女に返し、誠意をもって謝り、そして一目惚れした気持ちを打ち明けていれば、もしかしたら天女が天界に還らなかったのではないかと想像します。
いずれにしても、『七夕さま』は人間のさもしさが語られています。
まんが日本昔ばなし
『七夕さま』
放送日: 昭和51年(1976年)07月03日
放送回: 第0065話(第0038回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 児玉喬夫
文芸: 沖島勲
美術: 阿部幸次
作画: 猿山二郎
典型: 羽衣伝説・天人女房譚・異類婚姻譚・由来譚
地域: 近畿地方(大阪府)
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『七夕さま』は「DVD-BOX第1集 第5巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『七夕さま』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
日本には、『七夕さま』のような羽衣伝説をはじめ、天女にまつわるお話が数え切れないほどたくさん伝わります。ぜひ触れてみてください!