気は優しくて、力持ち。足柄山の自然の中でのびのび育った『金太郎』は、江戸時代初期以来、『桃太郎』と並ぶ子どもの姿の英雄として親しまれ、男の子の象徴として、早くから五月人形にもとりいれられています。
今回は、『金太郎』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『金太郎』は、平安時代中期、源頼光の頼光四天王の一人といわれた実在の人物である坂田金時の幼名です。
『金太郎』に関してはいくつも伝説が存在しますが、その中でも中部地方に位置する静岡県駿東郡小山町の金時神社に伝わる伝説と、関東地方に位置する神奈川県南足柄市の足柄山に伝わる伝説が特に有名です。
ちなみに、小山町と南足柄市は足柄峠をはさんで隣り合います。
『金太郎』の出生については、小山町では、京の都で宮中に仕えていた坂田蔵人の息子と伝わりますが、南足柄市では、足柄山の山頂で、山姥が赤龍と交わった夢をみたことで『金太郎』を身ごもったと伝わります。
また、小山町と南足柄市に共通しているものは、母の名が八重桐ということと、『金太郎』が足柄山で、熊などの野獣と相撲をとり成長し、全身赤色の皮膚で、常に鉞を手に持ち、子どもの頃から怪力であり、母に孝行する元気で優しい子どもだったという点です。
それから、『金太郎』といえば“金”と書かれた大きな腹掛けですが、ぶかぶかの腹掛けの意味は、「この腹掛けが丁度よい大きさになるくらい、大きくて立派な子に育って欲しい」という母心によるものです。
坂田金時の名は、平安時代末期に成立したと見られる説話集『今昔物語集』などにもみられますが、『金太郎』の物語は室町時代に成立したと推定されます。
『金太郎』の物語は、江戸時代には浄瑠璃や歌舞伎などで脚色され、特に近松門左衛門の『嫗山姥』で日本中で広く知られるようになりました。
作詞: 石原和三郎・作曲: 田村虎蔵による童謡『金太郎』が明治33年(1900年)に『幼年唱歌』に掲載されたことで、おとぎ話と共に童謡も日本中で広く親しまれています。
あらすじ
むかしむかし、足柄山の山奥に金太郎という名前の男の子が母親と二人で暮らしていました。金太郎は、“金”の文字が書かれた赤い腹掛けを締め、いつも大きな鉞を担いでいました。
金太郎の友達は、山の動物たちでした。金太郎は毎日、野山を駆け巡り、山に住むクマやサルやシカたちと遊んで暮らしていました。相撲を取れば、クマを投げ飛ばすほど力持ちの金太郎でした。
ある秋の日のこと、クマの背中に乗って山道を進んでいると、谷で動物たちが困っているところに出くわしました。
「どうしたの」
と金太郎が尋ねると、
「向こう側に栗の実がたくさん落ちているのに、橋がないから向こう側に渡れないの」
と動物たちが答えました。
困っている動物たちを見て金太郎は、近くにあった大きな木を体当たりで倒すと、その木を谷に架け一本橋をつくり向こう側に渡れるようにしてやりました。
橋を渡った向こう側には大きな栗の木があり、栗の実がたくさん落ちていました。動物たちは夢中で栗拾いをしました。
金太郎は、力が強いだけでなく、困った者を放っておけない優しい子でもありました。
その後、強い力と優しい心を持った金太郎は、名前を坂田金時と改め、学問や剣術に一所懸命励み、源頼光に従事した頼光四天王の一人に数えられる立派な武士になりました。
解説
成長した『金太郎』が坂田金時として仕えた源頼光は、平安時代中期の武将です。頼光といえば、渡辺綱を筆頭にした頼光四天王(渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武)などの強者の家臣がいたと言われています。
室町時代に成立した『御伽草子』には、頼光四天王が活躍して、丹波国と丹後国(丹波国も丹後国も現在の京都府北部)の境にある大江山に住む鬼の頭領の「酒呑童子」を退治したと伝わります。
また、酒呑童子を退治の際に使用したとの伝承を持つ太刀は「童子切」と呼ばれ、現在は東京国立博物館が所蔵し、国宝に指定されています。
酒呑童子を退治した後の坂田金時に関する記録はほとんど残っていません。一説には、源頼光が亡くなった後、三ケ月間の供養を行い、その後は足柄山に戻り行方不明になったと伝わります。つまり、源頼光に捧げた生涯ということです。
それから、宇治金時や氷金時など、かき氷にのせる甘く煮た小豆のことを「金時」と呼びます。この他にも、インゲンマメの中でも代表的な銘柄の金時豆や京ニンジンと呼ばれる金時ニンジンなど、金時とつくものは色々とあります。
この金時というのは、坂田金時のことを指します。坂田金時の幼名は『金太郎』です。『金太郎』が全身赤色の皮膚であったことから、いつの頃からか赤いものを金時と例えるようになりました。
さらに、坂田金時には金平という名の息子がいました。「金平ごぼう」の由来は、息子の金平からきたものです。つまり、親子そろって食材名になっているということです。
ちなみに、「金時の火事見舞い」ということわざがあります。これは、赤ら顔の坂田金時が火事見舞いに行くと、炎によってさらに顔の赤みが強まることから、飲酒などによって顔が真っ赤になる様子を例えたそうです。
感想
登場人物に焦点が当てられる昔話は、桃から生まれたり光る竹の中に居たりと、その誕生に不思議なことがあるものです。
ところが、『金太郎』の物語には誕生の秘話がありません。
それは、『金太郎』が実在の人物だからではないでしょうか。つまり、『金太郎』の物語は、かなり史実を反映していると考えることができます。だから、その史実に多少の物語を付け足すことくらいしかできなかったのでしょう。
これが、実在の人物の伝説をおとぎ話にする難しさといえます。
また、『金太郎』が坂田金時となり京の都で活躍する立身出世の物語でありながら、その点についても多くを語られることがありません。
それは、平安時代という時代背景が関係していると考えられます。京の都からすると辺境の地である足柄山に住む関東の武士が、名将といわれ都で活躍していた源頼光に召し抱えられたことをおもしろく思わない人物がいたのではないでしょうか。
だから、立身出世の物語でありながら不思議な内容となっています。
武士が政治の実権を握り、武士の世が始まるのは、もう少し後の平安時代末期からです。そう考えると、もしかしたら『金太郎』を読み解くと、日本の歴史の推移を紐解くことができるかもしれません。
まんが日本昔ばなし
『金太郎』
放送日: 昭和51年(1976年)06月05日
放送回: 第0059話(第0035回放送 Aパート)
語り: 常田富士男・(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 彦根のりお
文芸: 鈴木良武
美術: まるふしろう
作画: 座間喜代美
典型: 金太郎伝説
地域: 関東地方(神奈川県)/中部地方(静岡県)
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『金太郎』は「DVD-BOX第1集 第2巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『金太郎』のあらすじと解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『金太郎』は坂田金時の幼名です。坂田金時は、平安時代に源頼光に仕えた頼光四天王の一人といわれた関東の武士です。その強さ、勇敢さは広く知られ、後世にも語り継がれています。そんな中で『金太郎』の物語が生まれたのでしょう。ぜひ触れてみてください!