バロン~ おぶさりてぇ~
バロン~ おぶさりてぇ~
『おぶさりてい』は、怖いもの知らずの男が、化け物をおぶって家に連れて帰ると、翌日には化け物が金の塊になっていたというお話です。
今回は、『おぶさりてい』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『おぶさりてい』は、『おくびょう男と夕顔お化け』とも呼ばれ、新潟県の一部地域に伝わる妖怪「バロン」にまつわる昔話です。
バロンは巨大な入道(大入道)で、「バロン、バロン」と音を立てながら現れることから、『バロンの化物』と呼ばれ、特に新潟県南蒲原郡では人々に恐れられています。
1950年に小山田与清が編纂した、地域の伝承や信仰、人々の団結の重要性を伝える『南蒲原郡昔話集』には、「バロンの化物」との題で「バロン」と呼ばれる妖怪のお話が収録されています。
また、地域によって内容に多少の違いはありますが、秋田県には『んばろんの話』として、山形県には『金神様』として、他にも青森県や宮城県、福島県にも似たようなお話が伝承されています。
このように「バロン」は東北地方に広く伝わることから、もしかしたら寒い地域に伝承されてきた妖怪なのかもしれません。
ちなみに、新潟弁では「おぶさる」のことを「ばれる」と言います。つまり、「バロン」とは新潟弁で「おぶさりたい」という意味になります。
あらすじ
むかしむかし、あるところに、仲の良い百姓夫婦が住んでおりました。
亭主は、大変な臆病者で、夜中に一人では便所にも行けず、
「すまんが起きてくれ。小便に行きたい」
と言って、横で寝ている女房を起こすほどでした。
仕方がないので、毎回、女房は提灯を下げて亭主の小便に付いて行くのですが、無理に起こされるので、日中はいつも眠くて眠くてたまりませんでした。
「夜中でも、うちの人が一人で便所に行けるようにならないだろうか」
と女房は色々と考えました。
そしてある夜、
「今夜はちょっと悪戯をして、うちの人の臆病を治してあげよう」
と女房は思いました。
その夜も、いつものように女房が亭主と一緒に便所へ行きました。
亭主が便所の戸を開けて中に入り、用を足している間に、女房は裏庭へ夕顔を取りに行きました。
そして、取ってきた夕顔を便所の戸の上枠からぶら下げました。
用を足した亭主が、便所の戸を開け外へ出た時、亭主の鼻っ面に何かが当たりました。
「ひえーっ!化け物が出た!」
と臆病な亭主は叫び、へなへなと腰砕けになってその場にへたり込むと、そこに提灯を下げた女房が現れました。
「一体、何が出たんだね」
と女房が尋ねると、
「ばっ、化け物だ!そこに化け物が出た!」
と亭主は答えました。
亭主が恐る恐る、提灯で明るくなった辺りを見回すと、便所の戸枠に大きな夕顔がぶら下がっていました。
「化け物だなんて。あんた、よく見なさいな」
と女房は言って、ぶら下がっている夕顔を取り、それを亭主に見せました。
そして、
「恐いと思うから化け物に見えるんだよ。この世に化け物なんてものはいないんだよ」
と女房は亭主に言いました。
それからというもの、「化け物は夕顔のこと」と思うようになり、亭主の臆病は、すっかり治ってしまいました。
そんなある日、隣村に化け物の噂が広がりました。
それを聞いた亭主は、
「どうせ化け物の正体は夕顔だろう。オレが退治してやる」
と言って、化け物を捕まえに出かけました。
化け物が出るとの噂がある場所に亭主が着くと、光り輝く大入道が現れました。
バロン~ おぶさりてぇ~
バロン~ おぶさりてぇ~
大入道が言うので、亭主は化け物に向かって、
「そんなにもおぶさりたいのならば、オレの背中に乗れ」
と言いました。
大入道は言われた通り、亭主の背中に乗りました。
そして、亭主は大入道をおぶって家に帰りました。
家に着くと、怖がる女房を尻目に、亭主は庭に化け物を下ろし、上からむしろを被せました。
大入道をおぶってきた亭主は、疲れてそのまま寝てしまいました。
翌朝、亭主が女房と二人で庭に行きむしろを取ると、そこに大入道の姿はなく、大きな金の塊がありました。
昔、この辺りは金の採掘をしていた場所なので、きっと堀り残された金が、誰かに使ってほしくて化け物になって現れたのでしょう。
そして、この百姓夫婦は大変な長者になり、今まで以上に仲良く暮らしたそうです。
解説
人は、日常の場で化け物と顔を合わせていることはありません。
『おぶさりてい』でも暗闇の中に一つの光が登場します。
この光が...制作中
感想
『おぶさりてい』のテーマは、恐れを克服し、知恵を持って状況を乗り越えることの重要性にあります。
特に、主人公の男性が大入道(化け物)に出会い、その大入道を背負う場面は緊張感があり、読者を物語に引き込む力があります。
普通であれば恐怖に圧倒されてしまう場面ですが、男性は冷静に考え、自らの知恵を使って危機を乗り越えます。
この姿には、困難に直面したときに冷静さを失わず、柔軟に考えることの大切さが感じられます。
また、この物語は単に恐怖を煽る話ではなく、読み手に安心感や教訓を与える点でも優れています。
例えば、物語の終盤で主人公が大入道を無事に退ける場面は、正しい知恵を持てばどんな困難も乗り越えられるという希望を示しています。
さらに、『おぶさりてい』は地域特有の文化や自然観を反映しており、日本の昔話の中でも独特の魅力を持っています。
山道や大入道といった要素は、自然に対する畏怖や、未知の存在への敬意を感じさせます。
また、登場人物の行動や言葉遣いからは、日本人の素朴さや機転が伝わってきます。
この物語を読んで学べることは、恐怖に直面しても冷静さを保つことの重要性だけではなく、自分の持っている知恵を活用することで道を切り開けるという教訓です。
全体を通して『おぶさりてい』は、現代を生きる読者の私たちに深い印象を与えつつ、教訓を自然に伝える優れた昔話だと思います。
この昔話をもっと多くの人に知ってもらいたいと感じます。
まんが日本昔ばなし
『おぶさりてい』
放送日: 昭和52年(1977年)08月13日
放送回: 第0155話(0096 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 『妖怪と人間 (日本の民話 7)』 瀬川拓男・松谷みよ子・清水真弓 (角川書店)
演出: 久米工
文芸: 境のぶひろ
美術: 久米工
作画: 久米工
典型: 怪異譚・致富譚
地域: 東北地方
最後に
今回は、『おぶさりてい』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『おぶさりてい』は、恐ろしい化物のお話を通じて、恐怖に立ち向かう勇気、機転や知恵を活かして困難を解決することの大切さを伝える道徳的な教訓と学びが含まれているお話です。ぜひ触れてみてください!