『はなたれ小僧さま』は、水神様から贈られた“はなたれ小僧さま”を大事に育てたことで、貧しかった老夫婦が村一番の大金持ちになりました。ところが、小僧さまを手放した途端、老夫婦は元の貧乏暮らしに戻ってしまったというお話です。
今回は、『はなたれ小僧さま』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『はなたれ小僧さま』の舞台は、九州地方に位置する福岡県みやま市山川町真弓に伝わる民話といわれています。
『はなたれ小僧さま』の民話をもとに、みやま市山川町大谷に石像が作られたことで、広く知られるようになりました。
ちなみに、お話に登場する川は「底なし淵」と呼ばれ、水がとても綺麗な川で、はなたれ小僧さまの石像の真後ろを流れます。
また、お爺さんとお婆さんが、はなたれ小僧さまにお願いをして建ててもらった屋敷が、みやま市山川町真弓に“小字・屋敷谷”として現在も地名として残っています。
あらすじ
むかしむかし、ある村里に正直者のお爺さんとお婆さんが住んでいました。
二人は大変な働き者で、お婆さんは畑仕事、お爺さんは近くの山から取ってきた柴を町で売って暮らしていました。そんな働き者の二人でしたが、いつまで経っても暮らしが楽になることはありませんでした。
ある日、お爺さんがいつものように柴を担いで町にやってきて、
「柴はいらんかの」
と叫びながら、一日中売り歩きましたが、どうしたことか、その日に限って柴が一束も売れませんでした。
「なんでかのう」
とお爺さんは、仕方なく疲れた足をひきずり、朝担いで出た柴をそっくりそのまま担いで、帰り道につきました。
帰の途中、くたびれ果てたお爺さんは、水神様が祀られている祠の近くの川縁にさしかかった際、ふと立ち止まって、
「柴が売れなかったのは、わしの日頃の信心が足りんからだ。よし、水神様にお参りして帰るとするか」
とお爺さんは、
「水神様、残りものですみませんが、ぜひお使いください」
と言って、担いでいた柴をすべて川へ流し、水神様にお祈りしました。
そして、帰ろうとした時、
「爺さま、爺さま、お待ちください」
とお爺さんは誰かに呼び止められたので、振り向いてみると、そこには真っ白い衣を身にまとい、濡れたようなしっとりした髪を持つ、美しい女性が立っていました。
「先ほどは、たくさんの柴をくださり、ありがとうございます。柴のお礼に水神様が、この小僧様を差し上げたいとおっしゃっています。この小僧様は、『はなたれ小僧様』といって、お爺さんの願い事を何でも叶えてくれる不思議な小僧様です。その代わり、この小僧様はエビナマスしか召し上がりませんので、毎日三度、新鮮なエビを採って、エビナマスを作って差し上げてください」
と言って、その小僧様を差し出すとスーっと女性は消えてしまいました。
端整なお顔立ちの小僧様ですが、なぜか鼻の下には汚い二筋の鼻汁を垂らしていました。
お爺さんは、
「水神様のお恵みなので、大切にお育てさせていただきます」
と言って、大事に小僧様を抱いて帰り、お婆さんに帰りに起こった出来事を話して聞かせました。
お婆さんもたいそう喜び、二人で小僧様を大事に育てることにしました。
はなたれ小僧様が、あまりに汚かったので、お爺さんは半信半疑で、
「立派な家を建ててくれ」
と言ってみました。
すると、おんぼろだった家が立派な屋敷に生まれ変わりました。
それからというもの、はなたれ小僧様に祈ると、何でも願い事を叶えてくれるので、いつしか二人は村一番の大金持ちになりました。
ところが、二人はだんだんと小僧様へのご恩を忘れ、わがままを言うようになりました。
毎日三度のエビナマスを与えることが面倒になったのと、鼻汁を見るのが気持ち悪いと思うようになり、二人は相談して、はなたれ小僧様に帰ってもらうことにしました。
「はなたれ小僧様、もう何も欲しいものはないので、申し訳ないが、そろそろ水神様のもとへお帰りいただけないだろうか」
とお爺さんは、はなたれ小僧様にお願いしました。
すると、はなたれ小僧様は、大変に悲しそうな表情を浮かべ、そして鼻汁をズルズルとすすりながら、その場から姿を消しました。
そうしたらどうでしょう、村一番の立派な屋敷や蔵は消えてしまい、家はおんぼろに戻り、二人とも元のような貧しい暮らしに戻ってしまいました。
解説
『竜宮童子』とも呼ばれる『はなたれ小僧さま』は、九州地方を中心に、『浦島太郎』でお馴染みの「龍宮伝説」として、全国の水と関わりの深い地域に伝播していったといわれています。
そのあらわれが、多くの漁師の家で竈の上に「恵比須神」をお祀りする風習です。
恵比須神は、豊漁をもたらす漁業神や航海の守護神として信仰されてきました。恵比須神と龍宮伝説が相まって、『はなたれ小僧さま』の民話が生まれた際、「恵比須神」が「エビナマス」になったと考えられます。
それから、龍宮から贈られた童子が福をもたらすという説話は、一般的には『はなたれ小僧さま』として伝わりますが、それは沿岸部など水と関わりの深い地域に限ったことであって、内陸部の山里では『火男』として伝わります。
現在でも、沿岸部では「恵比須神」を、内陸部では「竈神(火男)」をお祀りする風習は、その名残りだといわれています。
『福岡の民話 第1集 ([新版]日本の民話 30)』は未來社から出版されています。福岡県を、それぞれが微妙な自然環境にある、筑後地方・筑前西部・筑前東部・豊前地方の四地域にわけて、各地方に伝わる人間の内面的な特徴と風土の特徴が如実に示された、「はなたれ小僧さま」などの民話が64篇とわらべうたが収録されています。感想
中国最古の歴史書である『書経』に、「満は損を招き、謙は益を受く」という言葉があります。
これは、「自惚れや慢心は損を招くが、謙虚であると人は幸福を受けることができる」という意味です。
世間では、己の能力を鼻にかけて他人を見下すような態度を取り、力づくで他人を押さえ込むような態度で、他人を押しのける強引な人物の方が成功していると思われがちですが、決してそんなことはありません。
それは、そのすべての態度が「満」にほかならないからです。
では、成功している人は、どのような態度で臨むのでしょうか。
それは「謙」の態度です。
「謙」の態度とは、心の内に物事に対する熱意や情熱を持っていながらも、謙虚で控えめな態度のことです。
つまり、謙虚さを持って、おごらないということです。
しかし、そのような謙虚な態度で出て成功した人でも、高い地位に就くと、謙虚さを忘れてしまい、傲慢になることがあります。せっかく、謙虚に努力をして高い地位に就いたというのに、知らず知らずのうちに慢心すると人生を踏み誤ることさえあります。
「謙虚にして、おごらない」という気持ちを、深く心に刻み、生きていくことが大切ということです。
まんが日本昔ばなし
『はなたれ小僧さま』
放送日: 昭和51年(1976年)10月30日
放送回: 第0092話(第0056回放送 Aパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 樋口雅一
文芸: 沖島勲
美術: 竹内靖明
作画: 高橋信也
典型: 宝物譚
地域: 九州地方(福岡県)
『はなたれ小僧さま』は「DVD-BOX第8集 第39巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『はなたれ小僧さま』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『はなたれ小僧さま』は、「謙虚な人だけが幸運に恵まれる」という、人間の“おごり”を戒めるお話であり、「幸せだから感謝するのではなく、感謝するから幸せになれる」とも説いています。ぜひ触れてみてください!