「水にも“種”がある」
昔も今も米作りは、手間も時間もかかる重労働です。『水の種』は、長い間、水不足に悩まされ続けてきた村を救った、一人のお百姓さんの不思議な物語です。
今回は、『水の種』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介します!
概要
『水の種』は山形県山形市の西部に位置する門伝地区に伝わる不思議なお話です。
長い間、水不足に苦しんでいる村が、何らかの“超人的な手段”により水を確保したことで、田畑を耕すことができるようになり、豊かな実りを得たという内容です。
水を確保する際に四十八もの沼ができ、現在では「白鷹四十八沼」と呼ばれています。
筋立てに「お伊勢参り」や「箱根神社参り」を加えた類話が白鷹四十八沼を水源とする地域に伝わりますが、いずれも結末は水に恵まれる内容です。
あらすじ
むかしむかし、羽前国の白鷹山の麓に門伝という村がありました。門伝は、池や沼や川がなかったため、あれ野だらけで、稲も思うように作れず、ひどく貧しい村でした。
この村に、与左衛門という一人の貧しい百姓が、年老いた母親と暮らしていました。与左衛門は信心深く、村の虚空蔵菩薩の前を通る時は、必ず手を合わせるほどでした。
ある日、ふもとの町へ用足しに行くため、与左衛門は村を離れることになりました。与左衛門が山を下り町に着くと、梅雨の時期ということもあり、須川はいつもより多くの水が流れていました。
与左衛門は、須川の岸辺にある高木の渡し場で、一休みすることにしました。
すると、子どもたちの声が聞こえてきて、与左衛門の頭に小石が当たりました。
「こらぁー!石なんか投げたら危ねぇじゃねぇかぁ!」
と与左衛門は怒鳴り、子どもたちの方を見ると、一匹の白い蛇に子どもたちが小石をぶつけていました。
子どもたちにいじめられている白い蛇を哀れに思った与左衛門は、その白い蛇を子どもたちから買い取ることにしました。
「今度、出てくる時は気をつけるんだぞ」
と与左衛門は白い蛇に言い聞かせ、逃がしてやりました。
その日の夕方、町での用事を終えた与左衛門は、再び須川の岸辺にある高木の渡し場を通りかかると、美しい娘に呼びとめられました。
娘は、
「私は龍宮の乙姫です」
と名乗り、続けて、
「今日は白い蛇に化けて地上で遊んでいました。危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
と与左衛門に言いました。
そして、
「危ないところを助けていただいたお礼に、龍宮にご招待いたします」
とも与左衛門に言いました。
与左衛門は乙姫さまに連れられて、美しい輿に乗り、須川から最上川に合流して海へと出ました。
龍宮に着いた与左衛門は、
「今日は娘の乙姫を助けていただき、ありがとうございます」
と龍王からもお礼を言われ、見たこともないような贅沢なご馳走で手厚くもてなされました。
与左衛門は夢のような日々を龍宮で過ごしました。
ところがある日、自分の村のことや年老いた母親のことを思い出し、家に帰りたくてたまらなくなりました。
「村に帰りたい」
と与左衛門が龍王に伝えると、龍王と乙姫さまは大変に悲しみましたが、
「何か土産にさしあげよう」
と龍王は言い、目もくらむような宝物を並べました。
その宝物の山の中に、一つだけ、みすぼらしい二本組みの白い徳利が与左衛門の目に留まりました。
与左衛門は龍王に白い徳利のことを尋ねると、
「この白い徳利の中には『水の種』が入っている」
と言われました。
与左衛門は龍王から
「こんなつまらないものを」
と笑われましたが、水不足に悩まされていた与左衛門の村にとっては、願ってもない宝物でした。
「これさえあれば、村で田んぼを作ることが出来る!」
と思ったところで、与左衛門は、ふと目覚めました。
そこは、みすぼらしい自分の家でした。
「今までのことは、すべて夢だったのだろうか・・・」
と与左衛門はがっかりしながら、いつものように村の虚空蔵菩薩にお参りに行くと、そこには夢で見たのとそっくりな二本組みの白い徳利がありました。
「まさか!」
と与左衛門は思いながら、一本の白い徳利を傾けてみると、中からは水が流れ出して、いつまでも尽きることがありませんでした。しかも、気付けばもう一本の徳利からもこんこんと水が湧き出ていて止まらないではありませんか。
水は溢れ、しまいには与左衛門は水に押し流されそうになってきました。
谷という谷に水は流れ落ち、四十八もの池や沼が村に出来ました。
与左衛門は座り込んで嬉し涙に暮れました。
こうして、門伝では水に困ることがなくなり、稲が実るようになり、村は豊かになったそうです。
解説
山形県を地図で見ると山形市、上山市、南陽市、山辺町、白鷹町の三市二町の境界線が一つの地点で接しているように見える場所があります。
その地点は白鷹山という山の頂(標高994m)です。
白鷹山は山形・米沢の両盆地を隔てる火山で、その北東斜面には火山噴火によってできた陥没地形のカルデラが多く見られます。このカルデラに水が溜まってできたものが、通称「白鷹四十八沼」と呼ばれる湖沼群です。
「白鷹」と名がついていますが、湖沼の多くは白鷹町ではなく、山形市の西隣にある山辺町に広がっています。
近年まで山形県山形市の西部にある村木沢・門伝・柏倉地区は、その湖沼群の中でも大沼・荒沼などを主な水源としていました。
大沼も荒沼も元はカルデラの窪みを利用した人工湖であり、類話も含めて『水の種』の舞台は主にこの二つの沼です。
感想
多くの昔話が「むかしむかしあるところに…」と表現されるのに、この『水の種』は「どこで」という場所が明確に盛り込まれています。
つまり、『水の種』は、実際の出来事を元にして、超常現象を交えて伝説がつくられたということです。
その伝説の舞台が、山形県山形市の西部にある村木沢・門伝・柏倉地区の水源であった大沼と荒沼です。
水の不安を解消したいという庶民の願望もあって、「水にも“種”がある」という伝説が成立したのでしょう。
人間は自然に対して“神頼み”だけをしてきたわけではありません。
民話の上では「超常現象」によって説明されていたとしても、実際に水源を確保し水路の開削をすることなどは、自然にできるものではないし、一人の人間によってできることでもありません。
そこには多くの人間が実際に関わった歴史的事実であり、生きるための英知の結晶です。
だからこそ、歴史的事実が伝説となって語られることになったのでしょう。
まんが日本昔ばなし
『水の種』
放送日: 昭和51年(1976年)08月21日
放送回: 第0077話(第0046回放送 Bパート)
語り: 市原悦子・(常田富士男)
出典: 表記なし
演出: 坂井俊一
文芸: 沖島勲
美術: 坂本信人
作画: 坂井俊一
典型: 動物報恩譚・龍蛇譚
地域: 東北地方(山形県)
『水の種』は「DVD-BOX第6集 第28巻」で観ることができます。
最後に
今回は、『水の種』のあらすじと内容解説、感想、おすすめ絵本などをご紹介しました。
『水の種』は、水の不安を解消し、水源を確保した村人たちの歴史的事実に、超常現象を交えたお話です。ぜひ触れてみてください!