昔話『三枚のお札』のあらすじ・解説・感想｜おすすめ絵本

　『三枚さんまいのお札ふだ』は、山姥やまんばに追おわれる小僧こぞうが、逃にげる時ときに和尚おしょうさんから渡わたされた三枚さんまいのお札ふだを一枚いちまいずつ投なげて、その投げたお札が障害物しょうがいぶつに化かすというところに特色とくしょくがあり、「呪的逃走譚じゅてきとうそうたん」と呼よばれる物語ものがたりです。

　今回こんかいは、『三枚のお札』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいします！

概要

　『三枚さんまいのお札ふだ』は、青森県あおもりけん、新潟県にいがたけん、埼玉県さいたまけんに伝つたわる民話みんわで、『鬼婆おにばばと小僧こぞう』『たべられたやまんば』などとも呼よばれています。

　昭和しょうわ45年ねん(1970年)に偕成社かいせいしゃより発行はっこうされた、作さく: 松谷まつたにみよ子こ・絵え: 瀬川康男せがわやすおによる絵本えほん『たべられたやまんば』が、特とくに日本中にっぽんじゅうで広ひろく親したしまれています。

　絵本えほん『たべられたやまんば (民話みんわかみしばい傑作選けっさくせん)』は、現在げんざいは童心社どうしんしゃより出版しゅっぱんされています。松谷まつたにみよ子こさんによるメリハリのあるセリフが面白おもしろく、それに重かさなる瀬川康男せがわやすおさんの絵えでハラハラドキドキさせられます。ぜひお子こさんと一緒いっしょに楽たのしんでください！

　絵本『さんまいのおふだ (日本にっぽん名作めいさくおはなし絵本)』は小学館しょうがっかんより出版されています。どのページも見開みひらきで、やまんばの表情ひょうじょうや執着しゅうちゃくが早川純子さんの手によってとても迫力のある絵で表現されています。

　童心社より出版されている絵本『さんまいのおふだ (松谷みよ子むかしむかし)』の原作は、同じく童心社より出版されている絵本『たべられたやまんば』です。両方りょうほうとも日本にっぽんの児童文学作家じどうぶんがくさっかである松谷みよ子さんが手がけた絵本です。方言ほうげんと素朴そぼくな絵で絵本の世界せかいに引ひき込こまれます。

　福音館書店ふくいんかんしょてんより出版されている『さんまいのおふだ (こどものとも傑作集けっさくしゅう)』は、水沢謙一みずさわけんいちさんによる語かたり口調くちょうをいかしたスリルあるセリフと梶山俊夫かじやまとしおさんの手による面白い絵が心こころに響ひびき、何度なんど読よんでも飽あきません。

あらすじ

　むかしむかし、ある山やまの高たかいところにお寺てらがありました。そこには、和尚おしょうさんとやんちゃな小僧こぞうが暮くらしていました。

　ある日ひ、小僧は和尚さんにお願ねがいして、お寺の後うしろの大おおきな山へ栗くり拾ひろいに行いかせてもらうことになりました。
　和尚さんは山には山姥やまんばが住むので、
　「山姥が出でたらこの札ふだに願ねがい事ごとを言いって使つかうがいい」
と小僧に三枚さんまいのお札ふだを渡わたしました。
　小僧が山に入はいると、あるわあるわ、大きな栗がたくさん落おちていました。栗拾いに夢中むちゅうになっている内うちに、すっかり日が暮れてあたりは真まっ暗くらになっていました。
　するとそこに一人ひとりのお婆ばあさんが現あらわれ、
　「拾った栗を家いえで茹ゆでてやる」
と言いうので、小僧はお婆さんについて行きました。
　小僧は、お婆さんが茹でた栗を腹はらいっぱい食たべました。食べたら眠ねむたくなり、そのままぐっすり眠ってしまいました。

　しばらくして小僧がふと目めを覚さましたら、お婆さんが山姥の本性ほんしょうを現あらわし包丁ほうちょうを研といで小僧を食べる用意よういをしているのを目にしました。

　お婆さんが山姥だと気きづいた小僧は、
　「小便しょうべんがしたい」
と言うと、山姥は考かんがえ込こみ、小僧を縄なわで結むすびつけて便所へ行かせました。
　小僧は縄を解とき、一枚目いちまいめのお札に
　「自分じぶんの代かわりに返事へんじをするように」
と頼たのんで、便所の窓まどから逃にげ出だしました。

　「もういいか」
と山姥が何度なんどか尋たずねると、
　「もうちっと」
と小僧の代わりにお札が繰くり返かえします。
　あんまり長ながくて不思議ふしぎに思おもった山姥が、便所の扉とびらを開あけると、中なかは空からっぽで、小僧は跡形あとかたもなく消きえていて、そこにはお札に綱が結びつけてあり、そのお札が返事をしていました。
　騙だまされたと気きづいた山姥は小僧を追おいかけました。

　山姥は足あしが速はやく、追いつかれそうになった小僧は二に枚目のお札を取とり出だし、
　「大きな川かわになれ」
と言って後ろへ投なげました。
　すると大きな川が山姥の前まえに現れましたが、山姥は川の水みずをガブガブと飲のみ干ほして、また追いかけてきました。

　小僧は三枚目のお札を出すと、
　「火ひの海うみ」
と言って後ろへ投げました。
　火の海が出ましたが、山姥は先さきほど飲み込こんだ川の水を吐はき出して火を消けしてしまいました。

　小僧が命いのちからがらお寺にたどり着ついたときは、山姥はすぐ後ろまで迫せまってきていました。しかし、和尚さんはなかなか門もんを開あけてくれませんでした。真面目まじめに修行しゅぎょうに励はげむことを条件じょうけんにお寺に入いれてもらい、小僧は部屋へやの中に隠かくれました。

　やがて山姥がお寺に入はいって来きて
　「小僧を出だせ」
と和尚さんに迫りました。
　和尚さんは、
　「わしと術比じゅつくらべをして勝かったら教おしえてやる」
と言いながら、囲炉裏いろりいっぱいに餅もちを焼やき始はじめました。
　「山ほどに大きくなれるか」
と和尚さんが山姥に尋ねと、
　「出来るとも」
と言って山姥はぐんぐんと大きくなりました。
　次に
　「豆粒まめつぶほどの大きさになれるか」
と和尚さんが山姥に尋ねと、
　「出来できるとも」
と言って山姥は豆粒ほどの大きさになりました。
　すると和尚さんは、豆粒のように小ちいさくなった山姥を素早すばやく餅でくるんで食べてしまいました。

　それから山姥が現れることはなくなりました。

解説

　『三枚さんまいのお札ふだ』は、逃にげる際さいに、ある物ものが他たの物に変化へんかすることにより、追跡者ついせきしゃから逃げようとする「呪的逃走譚じゅてきとうそうたん」と呼よばれる民話みんわです。

　現存げんぞんする日本最古にっぽんさいこの歴史書れきししょである『古事記こじき』の神話しんわにみられ、黄泉よみの国くにの伊耶那美イザナミが、訪たずねてきた夫おっとの伊邪那岐イザナギを鬼女きじょ・黄泉醜女よもつしこめ並ならびに雷神らいじんと鬼おにの軍団ぐんだん・黄泉軍よもついくさに追おわせる物語ものがたりは、その典型てんけいです。

　イザナギは、髪かみに着つけていた黒くろい鬘かづらを取とって投なげると野葡萄のぶどうの実みに、さらに櫛くしを投げると筍たけのこが生はえ、黄泉醜女がそれを食たべている間あいだに黄泉比良坂よもつひらさかまで逃げのび、最後さいごは黄泉軍に桃ももの実を三個さんこ投げつけて追手おってを退しりぞけたとあります。

　また、このお話はなしには、便所神べんじょがみと呼よばれる「厠神かわやがみ」が登場とうじょうし、その厠神から小僧こぞうが三枚さんまいのお札ふだを渡わたされるという類話るいわも存在そんざいします。

　日本にっぽんでは、特とくに東日本ひがしにほんの地域ちいきで、便所べんじょに神様かみさまがいるとして祀まつる風習ふうしゅうがあります。
　厠神は、 此この世よとあの世、生せいと死しを媒介ばいかいする境さかいの神かみの性格せいかくを持もっているとされます。『三枚のお札』は、異界いかいを訪おとずれた小僧が、幾多いくたの冒険ぼうけんや難題なんだいを克服こくふくして、再ふたたび元もとの世界せかいへ戻もどるという異郷訪問譚いきょうほうもんたんとしても同時どうじに捉とらえることができます。

感想

　日本にっぽんの昔むかしばなしには、「三さん」という数字すうじが不思議ふしぎなほど数多かずおおく登場とうじょうします。だから、この『三枚さんまいのお札ふだ』の「三」という数字にも隠かくされた意味いみがあるのではないでしょうか。

　日本は、豊ゆたかな自然しぜんと森もりに恵めぐまれ，多神教的たしんきょうてきで母性原理ぼせいげんりの強つよい文化ぶんかを育はぐくんできました。その文化的ぶんかてき傾向けいこうから、日本人にっぽんじんは、対決たいけつよりも和わを尊とうとび、子こを想おもい、そして親おやを敬うやまうことが美徳びとくとされ、評価ひょうかされる社会しゃかいで生いきています。そのため、子どもは親と対決たいけつすることが難むずかしい傾向けいこうにあります。しかし、子どもが親から精神的せいしんてきな自立じりつを果はたすには“親との対決”が不可欠ふかけつです。そして、この子どもと親との対決こそが、いわゆる「反抗期はんこうき」なのです。

　反抗期は、子どもの成長せいちょう過程かていで3回かい迎むかえると言いわれています。1回目かいめは、いわゆるイヤイヤ期きと呼よばれるもので、2～3歳さいごろの第だい1次じ反抗期です。2回目は、小学校しょうがっこう低学年ていがくねんごろの中間ちゅうかん反抗期です。3回目は、反抗期の象徴しょうちょうとしても知しられる思春期ししゅんきの第2次反抗期です。

　お話はなしに登場とうじょうする三枚さんまいのお札ふだによる抵抗ていこうは、「第1次・中間・第2次反抗期」を意味しているのではないでしょうか。そう考かんがえると、山やまは「親の無意識むいしきの世界せかい」となり、山姥やまんばは「親の否定的ひていてきな力ちから」と置おき換かえることができます。つまり、子どもを自立させるためには、親も子どもから自立する必要ひつようがあると、このお話は諭さとしているのです。

　子どものしつけや教育きょういくを考える場合ばあい、当あたり前まえのこととして捉とらえていた昔ばなしの価値観かちかんや考え方かたを少すこしだけ意識化いしきかするだけで、子育こそだてに役立やくだてることができるということです。

まんが日本昔ばなし

『三枚さんまいのお札ふだ』
放送日: 昭和51年(1976年)03月27日
放送回: 第0043話(第0025回放送 Aパート)
語り: 常田富士男･(市原悦子)
出典: 表記なし
演出: 小華和ためお
文芸: 沖島勲
美術: 河野次郎(スタジオユニ)
作画: 山崎久
典型: 呪的逃走譚じゅてきとうそうたん･異郷訪問譚いきょうほうもんたん
地域: 東北地方/中部地方(新潟県)

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　『三枚のお札』は「DVD-BOX第だい2集しゅう 第9巻かん」で観みることができます。

最後に

　今回こんかいは、『三枚さんまいのお札ふだ』のあらすじと内容ないよう解説かいせつ、感想かんそう、おすすめ絵本えほんなどをご紹介しょうかいしました。

　古来こらいより日本にっぽんでは、三種さんしゅの神器じんぎ(八咫鏡やたのかがみ、八坂瓊勾玉やさかにのまがたま、草薙剣くさなぎのつるぎ)や三宝さんぼう(仏ぶっ・法ぽう・僧そう)といった、「三さん」の数字すうじを聖数せいすうとして捉とらえる文化ぶんかが存在そんざいします。三は神聖しんせいで縁起えんぎの良よい数字なので、その世界観せかいかんにぜひ触ふれてみてください！